横道 世之介(book)

なんとなく記憶を辿る。
そう思うのは誰でも同じような空気を感じてきたからだろうか。

学生時代の記憶なんてものは、誰でも鮮明に覚えている出来事は数えきれないくらい持っていて、年を経て時々、ひっぱりだしては眺めているものなんだろうと思う。そんな話しなのかもしれない。
本文は横道世之介という主人公が、九州の田舎から東京の大学に進み、その最初の一年間が描かれている。その合間、合間に登場人物達の「現在」(40歳くらいの場面)が挿入されていて、「過去」になる学生時代がさらにリアルに浮かび上がっているような気がする。

なぜか熱を帯びる若い時期を、その未来である「現在」から俯瞰して見られている感じがどこか切ない。先のことが分かっていて誰も「現在」を選んでいるわけではないと思う。もちろん先のことを考えてはいるのだろうが。
この小説では、その先が少しだけなのだが、一つの場面としてそれぞれ描かれている。そのどちらもを見ることができる読み手は、その部分に、その差みたいなものに何かを感じてしまう。

いろんなものを感じながら「現在」に僕らは至っている。「過去」が続いてきて「現在」なのだから当たり前といえば当たり前なんですが。
当たり前のことを、ちょっと忘れている気がしました。
横道世之介 ― 僕もできたら出会っていたかったような奴ですね。なんでもない普通な人なんだけど、なんでもない普通な学生生活なんだろうけど。

横道世之介

横道世之介

面白かったです。
作者・吉田修一の軽い作風の一つに入るんだろうけど、やっぱり吉田修一でちょっとした些細な感覚を描くのがうまいですね。その感覚に、いつもやられます(笑)
好きな一冊になりそうです。